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毒を食らわばフルコース

産廃創想話に投稿した幽々子メインのSS。
内容:なんか生ゴミ食べてる。



 西行寺幽々子は飢えていた。
 なんと、寝ているわけでもないのに六時間も何も食べていないのだ。昔々、旧独軍の某少佐は「デブは一食抜いただけで餓死するんだ」という名言を残したが、デブではないし何食抜こうとも死ぬほど苦しくても死にはしない幽々子もまた、長い時間何も食べないと幻想郷中に死を撒き散らしたくなる。空っぽのお腹がきゅうきゅうと切ない喘ぎ声を上げている。
「お腹空いたのよ妖夢ぅ~」
 呼びかけるも、魂魄妖夢は今まさに主人の飢えという名の白玉楼の異変を解決する下準備の為、人里へ買い物の真っ最中だ。
 今夜は幽々子様のリクエスト通り、おでんとステーキにします。ですから大人しく待っていて下さいね。
 主人に向かってまるで子供に向かって噛んで含めているような口調で言う妖夢に、分かったわよと答えたのだ。信じますよ、と念押ししてから、お気に入りの籐かごを右手に引っ掛けて出て行った妖夢の後ろ姿を見送ったのが遥か昔のことに思える。いっそ生前の出来事だったのではないか、とすら考えて、いやそれはさすがに無いわねと現実的な考え方に立ち返る。 しかし立ち返ったとて空腹なのは変わりない。 寧ろ時間が経つにつれて状況は悪化していく。立っているのが億劫になり、畳の上にごろりと寝転がる。硬く乾いたイグサが着物と擦れてざりりと鳴った。
「妖夢~どこで油を売ってるのよう。それともなんの油を買おうか迷ってるのかしら?」
 独白に応じてくれる可愛い庭師はまだ帰って来ない。むう、と唇を尖らせて幽々子は寝返りを打つ。視線の先には幽々子の天国の原産地たる台所が在る。何か軽くつまめるものぐらいあるかもしれない。主をこんなにも飢えさせる妖夢が悪いのよ。幽々子は起き上がると抜き足差し足で向かう。つまみ食いを繰り返していた癖で、誰もいないのについ足音を忍ばせてしまう。もう死んでいるのに足があるのはこんなところで不便が出てしまう。こそこそと盗っ人よろしく台所に立つ。令嬢厨房に立たずとは言うが、非常事態なのだから仕方がない。
「う~ん?」
 コンロに置かれた鍋の蓋を開けると、美味しそうなクリームシチューの完成品が鎮座している。野菜と鳥肉のエキスが白く濃厚な液体に溶け込んでいるのがわかる。半人前とは言え、料理は限りなく一人前に近い。一人前、と素直に言わないのは愛の鞭というやつである。大事な従僕には剣術にも園芸にも料理にも果てしない向上心を持って欲しいのだ。
 さてお味はいかほどか、とお玉を手に取りかけて。
「……駄目、駄目なのよ幽々子。急がば回れと言うじゃない」
 むすっとした妖夢にぐちぐち小言を言われて時間を取られ、せっかくのご飯も冷めてしまうビジョンが頭をよぎり、首を振って元に戻す。損して得取れ、という至言もある。急がば回れ、しかし、回り道のゴールはいまだに見えないけれど。
「もー……」
 作戦変更、少しぐらい摘まんでもばれたりしなさそうなものを探すとしよう。そうと決まれば宝探し間隔で、鼻歌交じりに戸棚や引き出しを開閉してみる。続けて引っ張った箱の中身に、幽々子は面食らった。紫から貰ったのか、香霖堂で買ってきたのか、樹脂で出来たその箱の正体はダストシュートで、なんとなく食べた気がしなくもない食材の切れ端や、何かが気に入らずに根こそぎ捨てたらしい料理までもが混沌と詰まっている。残飯がないのが白玉楼から出るゴミの特徴だ。お残しは許しまへんで。
「あらあら妖夢ったら」
 もったいないもったいない。幽々子は呟くと捨てられていた里芋の煮物を指先で可憐に摘むと、なんの躊躇いもなく口へと放り込んだ。冷え切って入るがじっくり時間をかけて煮たのだろう
「あらあら、味がしみてて美味しいじゃない。妖夢ったら何が悲しくてこんなものを捨てちゃったのかしら?」
 里芋の煮物には紫が時たまくれるイカが入っていればベストなのだが、さすがにあれが入った料理はどんなに失敗してもどうにかして及第点に押し上げ食卓に並べるだろう。海のない幻想郷では魚介類は高級品だ。
「ん、ごちそうさまでした」
 ばれないように、と思いながらも半分ほど煮物を腹に収め、幽々子はぽんぽんと腹を撫でた。しかし中途半端に食べてしまったせいで、空腹が悪化したように思える。
 しばしの沈黙の後、形の整った唇が、にいっとつり上がった。
「どうせなら完食しちゃいましょ」
 一口、二口、三口。ひとつひとつ摘んでいくのが億劫になってきたのか、掌を広げて握り潰さんばかりに掴みとり、口の中に放り込む。がりぶちゅ、と芋らしからぬ異音が口の中で響いたが、煮物の味と混ざって何を食べてしまったのか分からなかったから気にするのをやめ、また一口。手に絡みついた煮汁まで舐め取って、幽々子は満足そうな笑顔を浮かべた。
「うふ、満足満足」
 ぐいっと伸びをして台所を後にし、畳に再びごろりと転がる。腹もくちくなったから、妖夢が帰ってくるまでうたた寝でもしよう。

 そう決め込んで眼を閉じて数分、幽々子は再び自分の腹の異変に気が付いた。痛い。そして雷雲でも飲み込んだような音が内臓から響いている。理由は考えなくても分かる、血迷ってあんなものを食べてしまったからだ。煮物は食べても平気そうだと思っていたが、一緒に何かやばい感じに腐ったものでも食べてしまったらしい。さては長らくゴミを捨てずに放置していたのか? 怠惰な従者め、本当の理由は言えないから、あとで適当な理由をでっち上げて折檻してやる。
 そんなことを考えながら、幽々子は這いつくばりながら厠へ向かう。元から長い白玉楼の廊下が、今は永遠に続く道のりに感じる。着物が擦れて汚れるのも構わずに幽々子は這う。ごるごるごる、腹に渦巻く汚らしい雷鳴の轟が止まらない。
 厠の戸を開け裾をたくし上げ粗相のリスクは回避。しゃがみ込むなり幽々子は括約筋の踏ん張りを放棄した。

ブビュッ、ゴロゴロ! ブビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!

「んんんんんんんんんんっ~!」

 ねっとりと鼻腔に絡みつく異臭を放ちながら下痢糞が便器へビチャビチャと落ちていく。これが汲み取り式ではなく水洗式だったならば盛大に跳ねて着物を黄土色に汚していただろう勢いで、幽々子の腸に溜まっていた老廃物がどろどろと溶けてデトックスされていく。
「妖夢うううううううううう!」
 自分の悪食を棚に上げた呪いの声を上げながら、幽雅な亡霊少女はひたすら悪臭と大便を吐き出していく。やがて空腹どころか腸の隅々まで空っぽになった感覚がして、便意がようやっと鎮まった。
「あの子ったら……もう……」
 言葉にならない呪詛を呟きながら厠を出て、今度はよろめきながら廊下を歩く。匂いを薄れさせたいのと単に外の風に当たろうと縁側でうつ伏せに倒れていると、買い物カゴをぶら下げた妖夢がいそいそと戻ってくるのが見えた。
「ゆ、幽々子様ッ?!」
「なぁに、昼寝の邪魔しちゃって……」
 あくまで、さっきまで寝てました、という体で半開きの眼を擦る。その様子を見て、妖夢はぺこりと頭を下げた。
「失礼しました。魂魄妖夢、ただいま戻りました」
「おかえりなさい。早々に悪いけどお茶を淹れて頂戴。喉が渇いて仕方がないの」
「はぁ……しかしそうしますと夕食の支度が……」
「後でいいからさっさとお茶を!私を干からびさせたいの?!」
「はっ、はいッ!」
 主人の怒声に慌てたのか、よろけながら妖夢が厨房に駆け込み、硝子のコップを載せた盆を手に早足で戻ってきた。緑色の水面がゆらゆらと揺れている。
「お茶です」
「ありがとう」
 水出ししたらしい緑茶を口に含むと、死人なのに生き返った心地になった。もう一杯、と所望すると妖夢は困ったような表情をして厨房に舞い戻る。がさごそと急須から茶葉を捨てるか何かをしているらしき音が聞こえ、みょんっ、と妖夢が素っ頓狂な声を漏らすのも耳に入った。
「妖夢?」
 返事はない。
「妖夢ぅ、何かあったのかしら?」
「幽々子様」
 妖夢の慌てた色合いの声が飛んできて、一拍置いてから生真面目にもきちんと淹れたお代わりのお茶を持って幽々子の前に現れる。
「なぁに?デザートのお伺いかしら?」
「違います。幽々子様は私の留守中にネズミの屍骸を見ませんでしたか?」
「見てないわよ~?」
「最近食材やゴミ捨てを荒らされるので、出かける前にゴミに薬を振りかけたんですが今見たら生ゴミが圧倒的な勢いで減ってるんですよ!あいつらこれだけ食らえばお陀仏確実なのに!死体が!ないんですよぉ!」
 確実に仕留める自信があったのだろう、妖夢のテンションがいささか壊れている。おかげて幽々子の目が泳いでいるのにも気付かないでくれたが。
 それはネズミじゃなくて私なのよ、とは口が裂けても言えるわけはなく。
「あ……あらあら厄介ねえ」
 困った声色であらあらまあまあと意味もない感嘆符を漏らす。
 捨てて間もなさそうな生ゴミと、不可解なまでの腹痛との関係に合点がいった。どんな薬をどんな量仕込んだのか幽々子には分からないが、妖夢の性格からして人間の大人も死ぬぐらいの量を撒いていたとしても不思議ではない。その効果たるや、死なない幽々子が腹を下すほどに、なのだから。
「見かけたら教えて下さいませ幽々子様!速やかに始末いたしますので」
「分ったからご飯よご飯! 早くぅしないとお腹と背中がくっつくわ~!」
「準備しますので今しばらくお待ち下さい!」
 屍骸を見つけられないままに二次被害が発生するのが不安になるのだろう。しかし大丈夫よぉ、とは幽々子にはやはり口が裂けても言えるはずがないので、妖夢への折檻はこの「ずっとありもしないネズミの屍骸に不安になるの刑」にすることにした。
 そう決めたら少し溜飲が下がる。ふふふ、と微笑を浮かべながら幽々子は背中から床に倒れこんだ。厨房からは妖夢が包丁を振るう快い音がする。

「お待たせしました。どうぞお召し上がり下さい」
「ふふふ、頂きまあす」
 空っぽになりきった腹に詰め込む妖夢の料理は、いつもよりも美味しく感じた。

「妖夢、明日あたり里芋の煮物が食べたいわ」
「わかりました。……昨日作ってたら鍋にゴキブリ飛びこんで全部捨てちゃったんだよなあ、しくじった」
「えっ」
「はい?」
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