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ドーナツのように謳歌せよ

去年末あたりから書いてたのですが、着地点が見つからないので一度公開。
面倒臭い話をページ数費やして書いてみたいものです。
スターバックスSHIBUYA TSUTAYA店。
渋谷という土地に行ったことはない人間に渋谷と聞いて浮かぶ光景を訊ねたら四割程度が代表的な情景として答えるだろう、それなりに印象的な巨大オーロラビジョンを掲げる建物の二階にあるコーヒーショップのカウンターに座り、キスメは雑踏を見下ろしながらチョコレートチャンククッキーを齧っていた。店員の好意でほんのり熱せられたそれは、埋め込まれたチョコチップが滴るほど溶けてしまっていて、口の中に届く前に白い皿の上に落下する。これじゃあただのクッキーじゃないか。内心でぼやきながら、人差し指でチョコチップの残骸を救って口に運ぶと、物理的にも粘つく甘さが舌の上に広がる。
「ミスタードーナツの飲茶、あるじゃない」
右隣に座る金髪碧眼の正統派美人は、低脂肪乳をオプションで注いだ抹茶クリームフラペチーノに刺さったストローの吸い口を指先で潰したり広げたりしながら、遠慮も配慮もなくスタバのライバル企業の名前を口にする。
「私、あの味が恋しくなって時々食べに行くのよ。麻婆ラーメンにドーナツとドリンクでセット価格750円だからデザート付きランチとしては手頃だし。でもあの店、ドーナツは一個一個お店で手作りって言う癖して、飲茶は客から見える位置で冷凍の麺と具とスープを温めて混ぜるじゃない? アレどうにかならないかしら。味といい嵩といい値段といいチープなのはこっちとしても重々承知だけど、もう少し見たくもない舞台裏を見せられる気持ちになって貰えないかしら?」
「そっすね」
チョコで甘くなった口をブレンドコーヒーでリセットしながら、キスメは彼女なりに考えた結果の相槌を打った。彼女の言っていることは共感できるし、
「コストパフォーマンス重視のファーストフードで過剰な配慮を求める威丈高さが妬ましいわね」
キスメの左隣に座る金髪碧眼のキツめ美人が横槍をダース単位で捻じ込んで来た。アリスの眉間に皺が寄るのが、横目で見ていても確認できた。
「いいこと?ドーナツを早く安くそこそこ美味しく提供する技術を妬ましくもシステマチックに極めたのがミスドよ。滅多に頼まれない飲茶のために調理スペースを設けられると思って?土地代を考えないで生きていられる経済観念が妬ましいわ。そんなに安いラーメンが食べたいなら日高屋にでも行きなさいな」
「日高屋はバクダン炒めを食べに行くための店であってラーメン屋ではないわ」
なんなんだこの会話の暴投は。女性のコミュニケーションとは共感が根幹にあると言うが、現状お互いが共感しようとせず共感を求めようとしているせいで軽度の地獄が発生している。大変だ、旧地獄新地獄に続く少女地獄が渋谷に誕生してしまった。医者はどこだ。閻魔はどこだ。
「日高屋をバカにするのはおやめなさい」
「先にバカにしたのはそちらだと記憶しているけど?」
「ひ、」
「なぁに?」
「何かしら?」
金髪美人の迫力ある顔がふたつ、左右からキスメに向けられる。
「日高屋、で、思い出したんですけど、お昼、どうします?渋谷ってどこも混むから早めか遅めがいいって、ヤマメから聞いたんすけど……」
「早めよね。遅く行くと限定ランチが無くなったりするもの」
「遅めでいいんじゃない?目的があるなら兎も角、ゆっくりあちこち回ってから食事でいいと思うの」
だめだこりゃ。
助けてヤマメちゃん。
今はこの場にいない友人の名を呼びながら、キスメはずずっとコーヒーを飲み干した。
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